2013年11月7日木曜日

WORK CHAIRS展の島崎信先生のギャラリートーク  
於名古屋文化のみち橦木館
2013.6.2 a.m.10:10~p.m.1:30
 
 
橦木館にて開催された木工家ウィークNAGOYA・2013
「WORK CHAIRS~働く木の椅子~」
にて6月2日に島崎信先生のギャラリートークが行われました。

3時間にも及ぶギャラリートークでは、
木工家の椅子を考える時に大切な内容が随所で語られ、
多くの参加者が感銘を受けました。
そこで、出展者全員とはいきませんでしたが、
14名の作家のプレゼンとそれに対する島崎先生のコメントなどを
皆さんの協力で文章化して公開することにいたしました。
木工家が椅子を作る時、木工家の椅子を見る時、木工家の椅子を買う時、等々、
とても参考になる話が満載されていますので、少し長いですが、うぞ最後までご覧下さい。

(展覧会の企画運営と画像・榊原厚 ギャラリートークの進行と文責・谷進一郎)

2014年の木工家ウィークNAGOYA でも同様な企画を検討していますので、ご期待下さい!


[島崎先生からのメッセージ]

今回は多くの椅子が展示してあるが、コンセプトの違いから4つのカテゴリーに分けてみることができる。
1、商品として、技術や材料などのコストを考えてデザインして作られた椅子
2、特定の使い手のため、特定の機能や目的を満たすために、コストが高くなっても良いものを作ろうという椅子
3、アートというのは好きではないが、作り手の趣味性が強いもので、アメリカ、イギリスなどアングロサクソン系の国に多く見られる一点物の椅子
4、自分の世界の椅子
 
朝山 隆 

「絵本の椅子」

児童館や絵本図書館、絵本書店向けの椅子で、背もたれの扉をあけると絵本が収納でき、児童がその椅子に座って絵本を読むことができます。児童館やお店が楽しくなるようなデザインにし、サブロクの合板一枚で製作でき、さらに連結するとヨーロッパの街並が構成されます。
 
[島崎先生コメント]

これは4つのカテゴリーの「特定の目的の為のデザイン」にあたり、背の扉を開けると絵本が収納でき、子供がそこに座って絵本が読めるという、分かりやすいデザインである。合板で製作されているが、あえてそれを使う必然性は無いのではないか。
全体的に「言葉」が多い気がするので、制作意図をきちんと伝えるためには、キャプションなどで明確に表現した方が見る人がわかりやすい。
情報伝達にはイラストの効果が高い。写真では不要な情報がたくさん映り込むが、イラストでは伝えたい情報だけに絞ることができる。
 
家具デザイン研究所
HP http://www.kaguken.com/

髙馬 正康
スタルクのデザインした椅子
COSTES
 
[島崎先生からのメッセージ]

3本脚の椅子が出品されているが、椅子の脚が必ず前に1本、後ろに2本になる向きに座らないと後ろ斜めに転倒する危険が高い。

スタルクがデザインした3本脚の椅子があるが、体を包む様な形状で実用的には大変危険な椅子だ。
 
榊原 厚

高齢者の為の椅子で、座板が回転します。
利点は椅子に座ったり・立ち上がったりがスムーズにできるので、特に高齢の方に好評ですが、金具を使用するので重くなったり、構造のバランスは良いとはいえません。

[島崎先生コメント]

椅子の見た目の美しさは合理的な構造の上に成り立っています。
この椅子の問題点は脚部のバランスと回転金具でしょう。
座板が回転するため、人が座った状態で回転動作をする際に足が脚部に当ります。
座板が回転する椅子もあってよいと思うが、ベアリングを用いてまでスムーズな回転をするのがよいかどうか。お年寄りや体の不自由な人が座りやすいよう回転させると、かえって滑りすぎて危険を招くこともある。
他の作家の回転椅子の作例もあるので、リ・デザインして追求したら良いでしょう。

木と土の工房 杜
HP http://www.mori-ya.net/
 

 
賀來 寿史

ホームセンターで購入できる木材でできる椅子をデザインして「つくれる家具」と名付けてみました。
つくりかたをオープンソースとして共有し、いつでも、誰でもつくることができる状況になれば、万が一、災害等で家財道具が失われるような事態が起こっても、近隣のホームセンターと、少し器用な人がいれば、椅子に座る生活を取り戻すことができるという、仕組みとしてもデザインしていきたい。

[島崎先生コメント]

ローコストの材料を使い、手間をかけずに作る、こういう発想も大切だが、そういうものづくりでも「美しいデザイン」を追求する姿勢を忘れてはいけない。
椅子の基本は「座れる」ことであって、当然ながらそれに伴う強度が必要になる。
しかし強度的にもたせることは大切だが、長時間座ったときの座り心地とか、体圧分布とか、あまり意識しすぎなくてもよい。
「たかが椅子」、いろいろな椅子があってよい。でも「されど椅子」でもある。

(+コト)X(モノ+)
HP http://www.kinokoubou.com/
 
野木村 敦史

杉は柔らかく、温かく、軽いという素晴らしい性能を持っていて、広葉樹とは違う別の素材として扱えば素晴らしい木で、椅子に最適だと考えている。
この椅子は肌に触れる部分は杉で強度が必要な部分は広葉樹(ブラックチェリー)でサンドイッチすることで持たせるという構造となっており、特許取得することができた新しい木工の接合方法です。
骨盤を支えるという考え方の背を有した椅子で、座面の凸カーブは深く座るとお尻が前にずれにくく、浅く座ると骨盤が立ち作業をしやすいポジションとなる、ツーポジションの椅子です。

[島崎先生コメント]

新しい構造の椅子の考え方は良いが、デザインの要素が多すぎるようだ。
革の背は木製でも十分座り易いものがつくれるはずなのでそれも検討してみたら良いと思う。
ひとつの椅子を作り上げたら、それを元に自分でリ・デザインを繰り返して完成度を高める事が大切で、3ヶ月、半年と時間をおいて取り組む事を勧める。3回ぐらいリ・デザインをするといい。
座り方や新工法などについて見る人に分かるようにイラストなどで伝える事にも注力するべきだろう。

すまうと
HP http://www.smaut.net/




伴野紀行

今回の椅子のコンセプトは「ちょい掛け」です。1点目は、木馬風の手掛け付きの椅子です。横向きに座ったり、またがったりします。玄関で靴を履くときにちょっと腰を掛ける、部屋で家事の合間や、テレビを観たり話をする時などちょっと座りたい時に有ればいいなと思い制作しました。2点目は、キノコっぽい正座椅子です。正座時に足のしびれや痛みを軽減する為の、ちょっとお尻をのせる補助椅子です。キノコっぽいスタイルに自転車のサドルの形状を組み合わせ、尻の骨が当たる部分を窪ませました。使っていない時、部屋に置いてあっても道具っぽくないスタイルにしました。 

[島崎先生コメント]
1点目について、意図は解るが各部のデザインや仕上げの表情が全て異なるので、見る人使う人に伝える言葉が多すぎる。2点目について、シンプルさや機能追求ではなく、作者本位のデザインで、作者の欲求を形作っている。

 
葛城弘治

 グリーンウッドワーキングで作られてきた椅子には、ウィンザーチェアやスラットバックチェア(注:日本の一部ではゴッホの椅子と言われたりしている)がありますが、その技術をベースにした椅子作りをしています。
 今回は、ウィンザーチェアと、ダブルボウウィンザーチェアをベースに、ラッシュシートを持つ椅子を出品しました。
 何度も改良を加えていますが、完成度の高いものを生み出すのは大変で、なかなか納得するものはできません。

[島崎先生コメント]

ダブルボウウィンザーチェアはいいと思います。
ペーパーコードの椅子はデザインの構成要素が多いのではないだろうか。

家具制作鯛工房
HP http://www.tai-workshop.com/


 
大西功起
 
 この椅子は2012年の高山の展覧会の「育む」というテーマを聞いたとき、赤ちゃんや子どものことが思い浮かび、制作したものです。
 ベビーベッドとしては必要な時期を過ぎると置き場に困るので、フレームの一部をはずすことでソファーにも使えるようにしました。
 座面高は通常のソファーよりもベビーベットの目線で低くして、サイズは通常のベビーベッドよりも小さいですが、赤ちゃんが寝るには十分な大きさです。
 従来のベビーベットは直線的で堅いシルエットが多いので、もっとゆりかご感のある柔らかなラインにしようと思いました。
 
[島崎先生コメント]
 
最初はなんでこんな肘のカタチをしているかと思ったけど、プレゼンボードを見てなるほどと思ったわけで、こうやって絵で説明することも大事だよ。
このようなテーマの家具を突き詰めていくと面白い物ができると思うから、1回で終わらず、リデザインを繰り返していってほしい。
上部のスポークと積層曲げの柔らかなラインはいいね。でも、上部の安定感とは違い、脚は君の遊びが入っているのか華奢な印象を受けますから、遊び心を抑えて制作することも大事です。
 
高橋三太郎
 私は島崎先生が話された椅子の4つのカテゴリーの一番目、つまり「普通の椅子」の必要条件は 1、こわれない 2、座りやすい 3、美しい 4その椅子・相応の製作コスト、だと思っています。
  今回の出品作は「後脚+背」以外の部分を共通パーツとするシリーズの6番目の椅子です。
  目指したのはシンプリシティ・単純化ということで、なるべく少ないパーツで、スタッキングできて、コンパクトで、しかも「普通の椅子」の4つの必要条件を満たすことを考えて形にしました。
  何事も「普通」であることが、一番難しいと感じています。

[島崎先生コメント]
「普通の椅子」についての考え方はそれで良いと思う。
リ・デザインをくり返す、といっても、ただ気になるところを変えてみるだけでなく、この様にテーマを持ち、課題を見つけて、取り組む事が大切である。
良いモノを作るには時間がかかるわけで、リ・デザインしないモノには力がないともいえる。
でき上がった椅子と対話して、素材を変えることで気がつく事もあるし、バリエーションを増やしていくと良いモノになっていくこともある。
 
家具工房SANTARO
HP http://www.santaroworks.net/
 
 
西川 虎三
私の椅子はピアノをイメージした椅子で、座は和紙のペーパーコードで編みこんでいるので軽くて丈夫です。背あてを積層で曲げて作り、美しい姿勢を保ちながら楽に座れると思います。ブラックウォルナットをメープルで挟み込んだ積層はピアノの鍵盤からインスパイアされました。

[島崎先生コメント]
全体のバランスから見て、背から前足までの距離が少し長いのではないか。
後足の形と背当てのラインの形が上手く共存しているかどうか。
背当てだけメープルでやるのは全体の色彩感覚からするとうるさくて、やりすぎではないか。
できあがった椅子に、作者の苦労の跡が出て見えるのは未熟なものといえる。
制作のプロセスが表に出るのもよろしくない。
難しい技術や優れた材料を使っていても、これみよがしになっているものは品格に欠けるものだ。

創造家具 虎三
HP  http://www.kagutora.com/


[島崎先生からのメッセージ]
デザイン作業で、最初に紙の上に形を描く時には、まずフリーハンドで描く事が大切です。
それはデザインが目と手によるクリエイションが元になっているからです。
他人に伝える必要がある時には、フリーハンドで描いた自分の曲線にR定規を選んであてて、その数値を他の人に伝えることが必要です。デザイン作業の最初からにR定規などに頼ってはいけない。
私も若い頃にフリーハンドで直線を描く事を訓練したが、留学先でほんのわずかな間隔に何本もの直線をフリーハンドで描いて見せて、周囲の見る目が一変した経験がある。

作者の力の基本となるフリーハンドの力と五感を通して自分の物差しを鍛える努力が必要です。

 
 

2013年11月6日水曜日


 
工藤 秀和

軽くて丈夫な椅子を作りたくて座を籐で編んで作りました。
もう1点は座板に乾燥で反ってしまった板を使って、曲げ木を組み合わせて作りました。

[島崎先生コメント]
籐の座について、他の人があまりやらないで、良い物だと思うものならば、是非作業を繰り返し、自分のものにするべきだろう。
籐編みのような緻密な作業の椅子作りと、木材の反りを活かすような椅子作りの両面を活かすとよい。
しかし、ひとつの椅子に多くの要素を盛り込みすぎるのはバランスが悪くなる。
シンプルイズベストが基本で、背とアーム、座、脚の形状が異なった要素をもつことは、言葉が多すぎる、と例える様に、見る人にも何が言いたいのかまとまらないものになってしまう。
朝倉亨 
木の椅子というからには座面は木で作りたい。
しかもそれが脚や背を支える主たる構造材にしたい。
という考えで木の座面のダイニングチェアを3脚制作しました。

オーチェア・・五枚組手のアームに框組の座面。日本的なラウンドアームの椅子を制作。
トーチェア・・背に10φのスピンドルが16本並んでいて一本一本が体のラインに馴染んで しなります。スピンドルは曲げ木を施さず笠木と座面の穴の角度の違いで組みたてながら曲げています。
ミシマキチェア・・最少部材数で座り心地腰当たりを追求した。

[島崎先生コメント]
日本的ラウンドアームというが日本らしさは伝わってこない。
曲げ木を施さないスピンドルは木の性質によって曲がり方にムラが出るのではないか。
部材数を少なくしてシンプルにするのは良いが2本の背が上から下まで平行なのはいかがなものか。
発言が朝倉ワールド。それだけでは共感を得ることができない。
 
京都炭山朝倉木工
 HP http://www.asakuramokkou.com/
 
谷 進一郎
この会場の部屋の様な畳の部屋でも使いやすいように畳擦りを持つデザインで考案しました。この椅子は最近の定番の仕事ですが、この椅子を元にしてサイズなどを注文に合わせて制作しています。

[島崎先生コメント]
畳摺りのついた椅子は、世界的に増える傾向にある。日本では室町時代から座卓などに取り入れられてきた。韓国では紙を貼ったオンドルの床の上に置く箪笥に畳摺りがついた。海外では、ふかふかの絨毯の毛足を傷めないために畳摺りをつけている椅子もある。

谷進一郎
HP http://www.tani-ww.com/
 
谷 恭子

私は実際に制作をしていませんが、どういう椅子を作ろうかを考える時は、自分や周りの人が生活していてどういう椅子が必要なのか、よく考える事を大切にしています。

[島崎先生コメント]
現代のもの作りには生活者の視点がますます大切になっていて、物と人がどう関っていけるかが問われる時代だ。
作り手の心を込めたもの作りを「ハートメイド」といっているが、実際に手を動かさずに協業や共同作業によって作り出すもの作りは「マウスメイド」といえるかもしれない。

スタジオKUKU(代表:谷恭子)
HP http://www.studio-kuku.com/


 
井崎 正治
これまで沢山の椅子を作っては来たが、改めて自分用の椅子を考えることが少なかったので、木工家ウィークの機会を利用して昨年に続き自分用の椅子を試作して出品しました。本当は試作品での出品はいかがなものなのかと迷ったのですが、自分の為の機会であると開き直り参加させてもらった。制作時間が少ないことで反省点は山程あります。

[島崎先生コメント]
自分のための椅子をつくる事も大切なことで、例えば次回の「木の椅子展」はそれぞれが自分のための椅子を作って持ち寄ってみたらどうか。
実現したらまたそれを見に来てもいい。

工房 塩津村
HP http://shiotsumura.blog70.fc2.com/